Friday 19 April 2013

Article in Japan Update!


 
宮城県東松島市の仮設住宅で津波被害の和服をリサイクルした小物を作るグループ「なでしこ」とビジネスをすることで支援活動するファッションデザイナー、牟田園涼子さんにお話を伺いました。

●イギリスに来られたきっかけを教えて下さい。
就職氷河期だったこともあって、洋服が作れるだけではなく英語力も身につけようと、大学卒業後すぐに渡英し、ロンドンカレッジオブファッションでデザイン とマーケティングを学びました。アーティストのように一作品を一週間かけて作ることも素晴らしいですが、衣食住という意味での洋服を作って売ることに興味 があったので、自分本位の服ではなく、自分の色を出しつつもお店の人が求めているものを考えて作り、それを売って人に喜んでもらいたいと思っていました。 学校で学んだマーケティングの知識は今でも役に立っていますね。現在は自分のブランドSonoで作品を販売しながら、フリーランスとしてイギリスのテキス タイルのスタジオにデザインを提供しています。過去の提供先としては、DKNYやEscadaなどハイブランドなどが多くあります。

●前述の仮設住宅で活動する女性グループ「なでしこ」との出会いを聞かせて下さい。
震災支援を何らかの形でやりたいと考えていた時、ロンドンのTERP(Tohoku Earthquake Relief Project)というプラッ トフォーム団体が、支援に興味がある人達の為にボランティアパブという、飲みながら被災地の状況や、支援方法を話し合う集まりを開催しているのを知って参 加しました。そこで、私の仕事に欠かせない手縫い作業のお手伝いとして、被災地の方々に働いてもらうのはどうだろうかという話をしたんです。手縫い作業は 無心になれて心を癒す効果があるし、少しでも被災者の方の気晴らしになればと。そうしたら、TERP代表の下濱愛さんを介して様々な方にご協力頂き、「な でしこ会」の六人に出会うことが出来ました。

●なぜ、「なでしこ」さんとお仕事をすることを決められたのでしょうか?
まず彼女達が私に、お金を集めて渡すという支援を求めていなかったからです。支援するならば、お金をあげるという一時的なものではなく、技術を教えたり、 仕事をする機会を提供する方がいいのではないかと考えていたので、それならば私にも彼女達が作る製品を私のブランドとコラボしながらヨーロッパで売ってい くことで支援ができると思いました。あと実際、洋裁技術を持った方々は被災地に大勢いらっしゃいますが、私はビジネスを一緒にしたいと思っていたので、技 術とやる気、そして商品としてお店に並んでも遜色ないセンスを持っている人がいいと思っていたんです。その点、なでしこのお母さん達には「支援金もある し、今の生活は楽と言えば楽だけど、自分の作ったお金でランチを食べに行ったり、ヘアサロンに行きたい」というような前に進もうとするモチベーションが あったんです。彼女達は、もともと東松島市でカキやノリの養殖をされていたんですが、津波によって工場も家も流され、その後仮設住宅で気晴らしに始めたの が、津波被害で着られなくなった着物の生地をリサイクルしてお花(なでしこflowers)を作ることでした。そのお花を見せてもらった時、すごく可愛い と思いましたし、これは震災のことを何も知らなくても「買いたい」と思える商品だと感じました。そして翌月、東松島に会いに行ったんです。

●牟田園さんは「なでしこ」さんとどのような関わり方をされているのですか?
私はバイヤー的な立場で、マーケティングやファッション関係のスキル、例えばイギリス人は桃色や青が好きだけどイタリア人は赤が好きだとか、オンラインで 売るならば同じ商品を作りましょうというようなアドバイスをしています。あとはEメールの使い方を覚えて頂いたりもしましたね。それからなでしこ会が作っ た製品を私のオンラインショップで売ったり、私の商品を置いてくれているネットショップで置いてもらったりしています。必要な金額は全部取って下さいと 言って頂いているので、商品の半分〜六割の利益を彼女達に渡し、残りは経費や次のなでしこ商品の営業などに投資するための費用に使っています。まずは商品 が売れることで、彼女達が潤うことが大切です。同時に、このやり方だと彼女達を支援することで、私やウェブデザイナーも少しだけ潤うんです。正規の会社同 士のやり取りに比べてマージンが低いので、そこがチャリティになると考えています。人間って、長く続かせるためには、肩書きだったり誰かに誉められたりお 金だったりご褒美が必要だったりしますよね。なでしこさんのものが売れることで少しだけ私も潤い、それによってまた彼女達を訪れ、次のプロジェクトに繋げ ていく資金ができるんですよ。でも、支援活動されている方の中には全てを犠牲にして全額寄付されている方もいますので、私のような支援の形を世間で理解し てもらうのはまだまだ難しいです。

●なでしこflowersの反響はいかがでしたか?
ジャパン祭りでは非常に好評で、以来沢山注文を受けるようになりました。また、懇意にしているイタリア人バイヤーに見せたら大感激してくれて、イタリア版 ELLEやコスモポリタンに掲載され、イタリアからの注文が殺到し、ミラノのお店でも販売されています。まさかここまでになるとは思っていませんでした。 なでしこさんは実感がわかないと言いながらも、自分達が仮設住宅という狭い世界で作ったものがヨーロッパで売られているというのは嬉しいようですし、何よ り楽しんで作って頂けているようです。それを聞いて私も安心しています。

●今後の展開について教えて下さい。
最終的には、私がいなくても彼女達が自分でブランドを運営できるようになって欲しいと思っています。自分で売れるようになれば、私とはバイヤーとメイカー という対等な関係になっていくと思いますし、いずれは若い世代に引き継がれて、なでしこの活動が継続していけると思うんです。そもそも彼女達が作っている 商品ですから、私がどれだけディレクションしたとしても自分達のものだということを忘れてほしくないんですよ。他には、今後なでしこ会のような人が他の地 域にいたら、その人達ともコラボして、なでしこさんとの横の繋がりを作れたらいいなとも考えています。あくまでもビジネスとして、垣根を取っ払ってやって いきたいですね。なでしこさんとコラボして半年目ですが、仮設住宅で生活していくのに不具合が出ないよう様子を見ながら、彼女達に無理が出ないようにやっ ていくつもりです。それは一緒にやりましょうと声をかけた人間としての使命だと思っています。なでしこのお花は震災関連のものだからと言っている間しか身 に付けられないものとは違い、デザインの完成度が高いサステナブルなものです。徐々に過去のことが忘れられていく中で、なでしこのお花を見て、東日本大震 災のことを思い出してほしいなと思っています。また私自身は、個人のブランドやフリーランスの活動の時間もしっかり持っていきたいと思っているので、その 時間と労力のバランスも今後の課題です。


牟田園涼子(むたその・りょうこ)さん
杉 野服飾大学卒業。ロンドンカレッジオブファッション2005年卒業。ファッションブランドLowieにて3年間アシスタントを務める傍ら、06年にオリジ ナルブランドSonoを設立。作品は日本、ベルリン、UK、イタリアにて販売されている。またフリーランスファブリックデザイナーやデザイナーとして、パ リやニューヨークで展示をするなど活躍。提供先には、ヒロコ・コシノ、ツモリチサト、Escada、DKNY等がある。12年から、仮設住宅で震災被害に あった着物で小物を作るグループ「なでしこ」とのコラボ商品販売を始め注目を浴びている。
www.sonofromlondon.com
www.sonofromlondon.co.uk